大判例

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東京高等裁判所 平成12年(ネ)3140号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  東京地方裁判所平成一〇年(リ)第四三四七号、同第四五二五号、同第四五二六号、同第五六二五号、同第六六九七号、同第七二六〇号、同第八二五〇号、同第九一一二号、同第九七九六号、同庁平成一一年(リ)第一三二号、同第一一五一号、同第二一〇九号、同第三一〇八号、同第四〇五七号、同第四七六九号、同第五七六六号、同第七〇二七号、同庁平成一〇年(リ)第四六五二号、同第四六五三号、同第四六五四号、同第五五二九号、同第六二六九号、同第七〇九八号、同第七九四七号、同第九〇一四号、同第九七六八号、同第一〇四四二号、同庁平成一一年(リ)第一〇七五号、同第一九〇九号、同第三一八一号、同第四一一〇号、同第四六四〇号、同第五六七〇号、同第六七四一号各債権配当事件につき、同裁判所が平成一一年一二月六日作成した配当表のうち、控訴人に対する配当額を二九〇二万一八五一円に、被控訴人に対する配当額を三八六万九九三九円に、それぞれ変更する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、株式会社北海道拓殖銀行(拓銀)が、原判決別紙物件目録記載の建物(本件建物)について有する根抵当権に基づき、物上代位権の行使として、本件建物の賃料債権に対する債権差押命令の申立てをしたところ、被控訴人が、同じく本件建物について有する根抵当権に基づき、物上代位権の行使として、配当要求をし、右配当要求に係る債権について配当をする旨の配当表が作成され、これに対して控訴人が異議を述べた事案である。

原審は、先取特権に基づく物上代位権を行使しようとする者は、先行する債権差押命令申立事件において配当要求をすることができるところ、先取特権に基づく物上代位権者と根抵当権に基づく物上代位権者とを別異に取り扱うべき実質的理由はないので、根抵当権に基づく物上代位権者も配当要求をすることができると解するのが相当であり、したがって、根抵当権者である被控訴人は、根抵当権に基づく物上代位権の行使として、配当要求をすることができるものというべきであるから、右配当表について内容の誤りは存在しないとして、控訴人の請求を棄却した。

二  争いのない事実等、当事者の主張及び争点

次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」第二に摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人

(一) 原判決の、先取特権に基づく物上代位権を行使しようとする者は、先行する債権差押命令申立事件において配当要求をすることができるとする解釈は判例により認められてきたものであるが、右判例の事案は動産売買の先取特権に関するものである。動産売買の先取特権と抵当権では追及効に差違があり、要保護性にも相違があるから、抵当権を先取特権と同視することはできない。

(二) 先取特権に基づく物上代位権者と根抵当権に基づく物上代位権者とを同様に扱うことは、民事執行法一五四条の立法経緯に照らしても不当である。すなわち、配当要求権者につき、民事執行法施行前の民事訴訟法六二〇条は「民法に従い配当要求を為しうべき債権者」とするのみで、制限を加えていなかったので、虚偽表示に基づく配当要求=執行妨害をすることが容易であった。民事執行法一五四条は、右のような問題を解決するため、配当要求権者の資格を、原則として「自ら強制執行ができる執行力のある債務名義の正本を有する債権者」に限るという、厳しい限定を加えた。右立法に際しては、例外としてどのような者に配当要求を認めるかが課題となり、法案要綱では、抵当権者などの物上代位権者も配当要求ができるとされていたが、最終的には、先取特権者のみが例外的に配当要求権を認められることとされた。この結論は、一般の先取特権について、労働者の賃料を確保するという社会政策的要請があること、当該先取特権を確保するために全て債務名義か少なくとも仮差押えの登記を経る必要があるとすると、非常に酷なことになることを考慮したためである。抵当権には右のような社会政策的配慮を必要としないのであるから、先取特権と同視することは不合理である。

実質的にみても、先取特権はその存在の証明が困難であるのに対し、抵当権は登記簿謄本のような法定の文書を提出して自ら差押えをすることによって容易に優先弁済権を保全できるのであって、先取特権者と同様に保護しなければならない必要性がない。

(三) 民法三七二条により準用される同法三〇四条は、根抵当権者が物上代位権を行使するためには、「差押」をすることが必要と定めるが、これには配当要求は含まれないと解すべきである。すなわち、民法三〇四条の趣旨には「優先権保全説」「特定性維持説」「第三債務者保護説」があるが、最高裁平成一〇年一月三〇日第二小法廷判決(民集五二巻一号一頁)は、「第三債務者保護説」を採用した。しかし、立法経緯からすると、民法三〇四条は旧民法債権担保編一三三条をそのまま継受したものであるところ、同条は、先取特権者は弁済前に「払渡差押」をすべきものと規定している。この払渡差押とは、保全処分としての性格と強制執行としての性格を併有するイタリア旧民法のopposizioneに由来するものであるが、民法三〇四条の差押えのような指名債権譲渡における対抗要件のような第三者保護のための通知に留まるものではなく、このための手段としては、現行法上は通常の債権差押えによるしかないのである。配当要求の場合には、第三債務者に通知され二重弁済の危険がなくなるからといって、直ちに三〇四条の差押えと同視することは妥当ではない。

2  被控訴人

(一) 控訴人のいう「追及効」は何を指すか不明であるし、債権執行において先取特権に基づき物上代位権を行使する者に配当を認めても、先取特権者を抵当権者より保護したことにならない。

(二) 立法経過が控訴人主張のとおりであるとしても、立法後の運用に当たっては、最高裁が先取特権の物上代位権者の配当要求を認めることを前提とした判例を出しているのであるから、法律は実社会に適した合理的な解釈運用によって始めて生きてくる。

(三) 「第三債務者保護説」によれば、配当要求申立通知書が裁判所から第三債務者に送達されるという手続により第三債務者の二重弁済の危険はなく保護されるから民法三〇四条の差押えには配当要求をもって足りるということになる。本件のように債務者が進んで先行差押命令の存在を同順位の担保権者に知らせた場合にはむしろ二重の差押命令ではなく、後から代位権を行使する者については、配当要求という形で扱う方が訴訟経済の観点からも代位権行使の時期的制約の点からも合理的である。

第三当裁判所の判断

当裁判所は、控訴人の本訴請求は理由があるので、認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。

一  根抵当権に基づく物上代位権者は、民事執行法一五四条に定める配当要求債権者に含まれるか。

民事執行法一九三条により準用される同法一五四条一項は、配当要求をすることができる者(配当要求権者)として、「執行力のある債務名義の正本を有する債権者及び文書により先取特権を有することを証明した債権者」を掲げているが、抵当権ないし根抵当権(以下、単に「抵当権」という。)に基づく物上代位権を行使しようとする者を掲げていないので、右の者は、配当要求権者に含まれないと解するのが相当である。

その理由は次のとおりである。同条が配当要求権者を右のように限定して規定したのは、虚偽債権に基づく配当要求を防止し、差押債権者の権利実現を保全するため、原則として有名義債権者に限ることとしたが、先取特権については、被担保債権の存在を前提として設定された約定担保権である抵当権とは異なり、当事者間の合意の下に被担保債権について予め担保権を確保する方法を講じることが困難である上、権利行使の基礎となる執行債権自体が特に社会政策的に保護すべき性質を有していたり(一般先取特権の場合)、あるいは、権利行使の基礎となる執行債権と債権執行の対象とされる被差押債権との間に、その全部又は一部について価値の同一性が認められる場合(特別先取特権の場合)に、配当要求を認めないと当該債権執行によって先取特権行使の機会を失ってしまうことになるので、公平の観点から、例外的に、差押えのほかに配当要求の方法を許容することにより、権利実行について選択の余地を認めたものと解される。他方、約定担保権である抵当権の場合には、設定を受けた担保物件に対する交換価値を把握して被担保債権に関する権利の実行を確保する措置を既に講じているものである上、物上代位権に基づいて債権執行をしようとするときには、債権差押えの申立てにおいて必要とされている担保権の証明文書(民事執行法一九三条)も既に存在しているので、先取特権に基づく場合に比較して、容易に右申立てをすることができるのであるから、差押えのほかに配当要求の方法をも認めるべき格別の要請も必要性もない。その上、抵当権に基づく物上代位権を行使しようとする者に配当要求の方法による権利行使を許容する場合には、配当要求をした右債権者は、債務名義に基づいて債権差押えをした一般債権者の差押手続を利用した上、配当手続では優先弁済受領権を行使する結果、抵当権者がその債権の全額につき満足を得るまでの間は、差押えをした一般債権者は、執行債権の満足が全く得られない状態を余儀なくされる。そして、一般債権者が被差押債権の一部差押えをするに止まるときには、差押えが競合する場合とは異なり、差押範囲の拡張の効力を生じないから(民事執行法一四九条)、かかる差押債権者が自己の執行債権の満足をより早期に得るためには、再度、被差押債権の残余の部分についても、自ら差押えをしなければならないという事態に陥ることにもなるのである。

以上のとおり、抵当権に基づく物上代位権を行使しようとする者については、配当要求の方法による権利行使を認めるべき制度的要請はなく、差押えによる以外に権利行使を認めないとしても、格別の不都合は生じない上、配当要求の方法を認めるときには、かえって、先に差押えをした一般債権者に対して不合理な犠牲を強いることにもなりかねないのであるから、先取特権における権利の実現方法と同列に論じることはできないというべきである。

したがって、抵当権に基づく物上代位権を行使しようとする者について、民事執行法一五四条を類推して配当要求資格を認めることは相当でなく、根抵当権者である被控訴人は、その物上代位権の行使として、本件債権差押命令事件につき配当要求することはできないものというべきである。

二  そうすると、本件配当表のうち、被控訴人の債権のうち配当要求に係る債権について七一〇万八八六五円を配当するとの部分は違法であり、控訴人の異議申出は理由がある。

よって、右と異なる原判決を取り消した上、本件配当表を控訴人の請求のとおりに変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 井上稔 裁判官 河野泰義)

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